電車
なかがわひろか

ガタン、ゴトン
朝の満員電車の中で
整然と並んだ大人の人たちが
揺られています

吊り革につかまっている人たちが
各々の吊り革を
舐め回すようにじっくりと
見ています

シューシューと
電車がスピードを上げて走り出したところで
吊り革につかまる人たちは
頭をもみもみと揉み始めました

段々みんなの頭が柔らかくなって
伸び縮みがしやすくなったところで
吊り革につかまっていた人たちは
吊り革の輪っかの部分に頭を押し込みました

首のところまで入ると
また頭を元に戻しました
吊り革につかまっていた大人の人たちは
輪っかに首をぎゅうぎゅうに締め付けられて
死んでしまいました

次の駅に着くと
駅員の人たちが入ってきて
手際よく吊り革で首を吊った人たちの首を
ちょきんちょきんと切っていき
あっという間に回収していきました

少し年を取った掃除のおばさんが
一つ一つまた手際よく吊り革を拭いていきました
後には血の痕も何も残らず
元通りピカピカになりました

数分と経たないうちに
それらのことは行われ
またたくさんの大人の人たちが
電車に乗り込んできました

ガタン、ゴトン
吊り革につかまった人たちが
また吊り革をじっくりと見ています

ガタン、ゴトン

ガタン、ゴトン

(「電車」)


自由詩 電車 Copyright なかがわひろか 2007-06-27 00:35:02
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