雑記
吉田ぐんじょう
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女子高生のルーズソックスの中には
何が入っているのだろう
はるか昔
恐竜が生きていて
まだわたしが女子高生だったころ
何度もルーズソックスを履こうと試みたが
あの絶妙なふくらみを
何度やっても再現できずに
結局いつも紺のハイソックスばかり履いていた
クラスメイトの
いつもルーズソックスを履いていた女の子に
一度訊ねたことがあるが
彼女は答えず
ただ高らかに
鳥のように笑っただけで
女子高生のルーズソックスの中には
何が入っているのか
わたしは未だに知らないままだ
だけど推測するに多分
あの中には
過ぎてゆく時間を惜しむ悲しみと
それから何かこまごまとしたもの
たとえばアイライナーとか消しゴムとか
そういったものが入っているような気がする
だからわたしは女子高生を見ると
いつも切ない気持になる
・
夜半に体がちくちくするので
裸になって見てみたら
体中の毛が小麦になっていた
黄金色にぴつんと生えた小麦は
一本一本
削ったみたいにちゃんと尖っていた
わたしはしばらく逡巡したが
思い切ってT字かみそりで
小麦を全部刈り取って集めて
それから製粉して こねて のばして
ロールパンをひとつ焼きあげた
ロールパンは不格好で温かくて
役に立たないから食べてしまうしかなくて
それはなんだかわたしに
とてもよく似ていた
初夏は変なことばかり起こるので楽しい
すべすべになった体で笑うと
窓の外で星がひとつ
バターのように溶けて流れた
・
野菜室を開けて
こんばんは
夕食を作りに来ましたよ
と挨拶すると
野菜たちは一斉に冷気を吐いて
ふうっと
諦めるみたいに笑った
手にしっくりとくるのは
やっぱりいつだって人参だ
ひんやりと堅い人参は
仕事ばかりして
家事もろくに手伝わないわたしの掌を
まるで許すかのように
夕暮れ色に染めてくれる
物言わぬ野菜たちは
ただ果てしなく優しい
切り刻んでころしても
文句ひとつ言わないばかりか
沸騰したお湯の中で
溶けてしまうまで踊ってくれる
背後ではニュースキャスターが
BGMのように殺人事件を伝えて
網戸から吹きこむ風は
えだまめのにおいがする
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