つゆむらさき
佐野権太

何を植えるかなんて
考えもなしに
掘りおこした
庭のすみ

やわらかい土の頂きに
雀が降りて
ころころと、まろび遊ぶから
つい、嬉しく振り返って
あの人の面影を探してしまう

幸せなきもちに身を寄せるのは
昔から下手だった

ムラサキツユクサが
ひとり静かに、揺れている
抜かずにおいたのは
やさしささえ
見失ってしまうのが
恐くて

*

世界だ
なんて
そんな遠くまで
知らなくてよかった
朝露を含んだ、青
ちいさな花でよかった

苦しいと言って
しぼんでしまうくらいなら
水に溶かして、青、ひとすじ
あの人の振幅に
ゆだねてしまえば
よかったのかもしれない



――― ひと雫 月に浮かぶは 蛍草
       うつろう香りを すくう指先



花をください
そんなにはいらない
やさしい人には
やさしく伝わる、きっと

ちりいん

軒下で風がこたえた







自由詩 つゆむらさき Copyright 佐野権太 2007-06-26 09:53:01
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