つゆむらさき
佐野権太
何を植えるかなんて
考えもなしに
掘りおこした
庭のすみ
やわらかい土の頂きに
雀が降りて
ころころと、まろび遊ぶから
つい、嬉しく振り返って
あの人の面影を探してしまう
幸せなきもちに身を寄せるのは
昔から下手だった
ムラサキツユクサが
ひとり静かに、揺れている
抜かずにおいたのは
やさしささえ
見失ってしまうのが
恐くて
*
世界だ
なんて
そんな遠くまで
知らなくてよかった
朝露を含んだ、青
ちいさな花でよかった
苦しいと言って
しぼんでしまうくらいなら
水に溶かして、青、ひとすじ
あの人の振幅に
ゆだねてしまえば
よかったのかもしれない
――― ひと雫 月に浮かぶは 蛍草
うつろう香りを すくう指先
花をください
そんなにはいらない
やさしい人には
やさしく伝わる、きっと
ちりいん
と
軒下で風がこたえた