小さい
水在らあらあ








一人ぼっちだ
花々の中で

麦畑を風が渡って
そこに点在するポピーは
そのひとつひとつが
恋で

黄色と赤の美しい翼を持った小鳥が
巡礼道の真ん中で風に吹かれて丸まっている

手に取ると
この手の暖かさの中でゆっくり目を閉じて

道の脇の木の根元にそっと置いて
手を見ると茶色い血がついていて


(君は 死んじゃうんだね)


麦畑の真ん中を通る道には
たくさんの小さなねずみたちが死んでいて
蝿たちはそれを世界に帰す作業に忙しくて
人間のまきちらした死を
世界に帰すのに忙しくて

もう寝よう 
宿に着いたら
もう寝たらいい
もう
もういい


目覚めたら
ブラジル人の美しい女性と
抱き合っていた

朝露に濡れた教会の鎧戸に
額を付けて顔を洗う

そうやって毎日違った場所で起きて
毎日違った愛で

十五年間巡礼道を歩き続けている
イタリア人のおじさんの荷物は少ない

嵐の森の中をひたすら歩いて
それは瞑想で
歩ききって
山の上で稲妻が耳元で爆発して

なんてちいさい
なんてちいさい
なんて
なんてちいさい

ああ
あそこで
あの村で
あの牛飼いの女の子と
生きてゆけたら
いいのに

涙をながすなら
不思議なことを
感じな
それ以外は
うそだから

うそだから

人間がどうなろうと
この文明がどうなろうと
なくなるのは
君と
君の
愛する人だけだから

君の生きる
その世界だから

ああ
なんてちいさい
なんてちいさい
なんて
くだらなくて
なんて
いとしい












自由詩 小さい Copyright 水在らあらあ 2007-06-25 07:14:43縦
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