湯船
松本 卓也

少し青がかかっているように見えるのは
海に程近い土地柄のせいだろうか
手足さえ伸ばせないような小さな湯船から
はみだしそうなほど注がれた温水に
右手を突っ込んでかき混ぜてみる

熱さに思わず手を引っ込めて
冷水を継ぎ足してはもう一度かき混ぜる
数ヶ月ぶりの日曜掃除で痛めた腰を癒すには
どれくらいが丁度良いのだろう

一注しの冷水と一注しの熱湯
熱さよりも心地よさが腕に伝わってくる頃
ゆっくりと全身を湯船に沈め
両手で温水を掬い上げ顔を洗う
立ち上る湯気が鼻をくすぐり
一人部屋に余計なほど大きなくしゃみ声

珍しく没頭した部屋の掃除で
痛めた腰に染み渡る温かさ
誰を迎えるわけでもないんだけどな

やり始めるまで面倒臭がっているけれど
やり始めたら徹底的ってのは
確かA型のサガなんじゃなかったっけ

漏れる吐息に安らぎを感じ
和らぐ痛みに少しの寂しさを
誰の為でもないからこそ
体を包む温かさが目頭を熱くして

向ける所もない水鉄砲を
壁に向かって二度三度
一人遊びには飽いてるけれど
もう少しだけ浸っていようか


自由詩 湯船 Copyright 松本 卓也 2007-06-24 22:28:37
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