湯船
松本 卓也
少し青がかかっているように見えるのは
海に程近い土地柄のせいだろうか
手足さえ伸ばせないような小さな湯船から
はみだしそうなほど注がれた温水に
右手を突っ込んでかき混ぜてみる
熱さに思わず手を引っ込めて
冷水を継ぎ足してはもう一度かき混ぜる
数ヶ月ぶりの日曜掃除で痛めた腰を癒すには
どれくらいが丁度良いのだろう
一注しの冷水と一注しの熱湯
熱さよりも心地よさが腕に伝わってくる頃
ゆっくりと全身を湯船に沈め
両手で温水を掬い上げ顔を洗う
立ち上る湯気が鼻をくすぐり
一人部屋に余計なほど大きなくしゃみ声
珍しく没頭した部屋の掃除で
痛めた腰に染み渡る温かさ
誰を迎えるわけでもないんだけどな
やり始めるまで面倒臭がっているけれど
やり始めたら徹底的ってのは
確かA型のサガなんじゃなかったっけ
漏れる吐息に安らぎを感じ
和らぐ痛みに少しの寂しさを
誰の為でもないからこそ
体を包む温かさが目頭を熱くして
向ける所もない水鉄砲を
壁に向かって二度三度
一人遊びには飽いてるけれど
もう少しだけ浸っていようか