君を乗せて
水在らあらあ



別れの朝
ミルクコーヒーと
クロワッサンに
味はなくて

バスを待っている
海から海へ帰るバスを

外に出て
港のベンチは石造りで
日をためて暖かくて
漁師たちの船が出てゆく
空は慈愛に満ちて青い

シンキとアレックスとヴィトリオが来て
俺を囲んで
歌い始める
旅の途中で俺が教えた
ラピュタの
君を乗せてを

俺が泣かないもんだから
シンキが怒って
ばか
日本人の男は
そう簡単に泣くもんじゃないんだ

バスが来て
みんな抱き合って
それが終わらないから
運転手がせかして

せかされてバスに乗って
外では皆が並んで手を振っている
せかされて乗ったのに
エンジンがかからなくて

みんな並んで手をつないで
女たちがまた歌いだす
永遠に続く海の歌を
その中の数人は泣いている
シンキは少し離れて日を浴びて
目を閉じている

バスが動いて
一度後ろに下がって
俺は隠していた腕の傷を窓につけて
ヴィトリオとアレックスとラファエルは
一斉に胸に手を当てる

みんな手をつないだまま
歌ったまま
手を上にあげて
一斉にお辞儀をして
何度もお辞儀をして
それは波のようで

シンキがバスに向かって走って
運転席の隣に登って
俺の名を叫んで
日本語で言う 少し 噛んで


いつか きっと 出会う


歌声の中
バスは坂を上って
景色は七色に流れて


別れの朝
涙と
腕から流れる血の
味は海で









自由詩 君を乗せて Copyright 水在らあらあ 2007-06-23 03:03:05
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