大事なもの
なかがわひろか

占い師に手相を見せたら
あんた来月死ぬよ、と言われた
何か避ける方法はあるかい、聞くと
一万円と答えた

僕は仕方なく一万円を支払うと
あんた大事なものはあるかい、と尋ねられた
僕は思い当たるものがあったので
うん、と肯いた

そいつを捨てちまいな
占い師はそう言った

僕は家に帰って
大事なものをベランダから放り投げた
これでよかったんだろうか
そんな風に思ったけど
それから一ヵ月後
僕は死ななかった

僕の大事なものは
ベランダから見える茂みの中で
毎日少しずつ腐っていった
僕の大事なものは
誰にも見つからずに
土の中に還って行く

その翌月も
その翌月も

僕は死ななかった

僕は大事なものを失った

僕は生きる意味も失った

(「大事なもの」)


自由詩 大事なもの Copyright なかがわひろか 2007-06-23 00:22:09
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