森をゆく足音
刑部憲暁

森をゆく足音は割れていて
でもそれは 決して
壊れてゆく訳でもなく割れていて
それはいくらか湿っていて
でもそれは 決して
濡れている訳でもなく湿っていて
微かに遠のくように響き
でもそれは 決して
遠ざかって行くのでもなく
遠のくように響きながら
木洩れ日の下で揺れていた

森をゆく足音には
もう一つの足音が寄り添うようで
でもそれは 誰かが
そこにいてこの何か 恐ろしいものが
癒されるというのでもなく
ただ何かが 寄り添っていて
目には見ることのない
だらだらと続く坂道は
下り続けて
足音は
森をゆく足音は
その坂を優しく撫でさすりながら
まだもう少し もうしばらくの間は
森をゆく足音のままに あるのだった


自由詩 森をゆく足音 Copyright 刑部憲暁 2004-05-14 21:02:19
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