再会
小川 葉
会社をやめて独立したという古い友人と
ひさしぶりに私のアパートの部屋で飲んだ
これが意外に儲かるんだよ
と言う友人は、自動販売機になっていた
胸には常にテレビのようなものを映している
ああ、これね
と言って友人は
テレビのようなものを巻き戻し
中学の卒業式を再生した
まだ子供だった頃の私と友人
そしてたくさんの懐かしい人たちが
テレビのようなものに映っていた
担任の教師が二人に
これから人生は
今よりもっともっと
きわめて厳しいものになるけれども
とにかくあきらめず
がんばれ
私が見守っている
いつまでも応援している
卒業おめでとう
などと、泣きながら語っていると
とつぜん画面にノイズが走り
映像がぷっつりと途切れてしまった
自動販売機の友人が酔いつぶれて
ソファの上で眠ってしまい
スイッチが切れてしまったのだ
私は急に喉が渇いてきて
せっかくだから
友人に百二十円を投入し
今、売れてます!
と、表示されてある
缶コーヒーをひとつ買った
ロイヤルスペシャルブレンドという
うそみたいな名前の缶コーヒーは
きわめて厳しい味がした
売り切れの赤いランプをいくつか点し
しずかに寝息をたてて眠る友人を
コーヒーを飲みながら見ていたら
なぜだか知らないけれど
涙があふれてきた
朝、目を覚ますと、友人は
すでに仕事に出かけてしまっていた
置き手紙とともに、お礼にと
ロイヤルスペシャルブレンドが三本も
テーブルに置かれていた