光の軌跡
朽木 裕
闇のなかに光の筋、茫洋と。
夜を裂くみたいにして、それは私の眼下を過ぎる。
一条のひかりの筋道は幾多の人をのせて何処かへと向かっているのだ。
あの、凝縮された光のなかに一体どれほどの命があって、
どれほどの物語があるのだろうと、遠くの窓際から頬杖をついて夢想する。
それはとても果てしないことのように思われる。
私は彼と向かい合って、
少食同士のくせに何度目かのバイキングのお店に来ていた。
「私達も懲りないよね」
「うん」
「でもラーメンよりはいいかと思ってさ」
「夜景見られるし?」
「ん、」
アップルビネガーのコールスローが美味しい。
それと寄せ豆腐のサラダも。
バイキングにくるとどうもサラダに傾倒してしまう。
対峙する人物がどうも高カロリー担当らしいので。
「野菜を食べなさい。野菜を」
「はぁい」
でもまぁ、食べずに胃ばかり痛くする例年の彼は見ていて切ないから、
お皿を平らげていく彼はひどく微笑ましい。
愛する人が食べものを美味しそうに食べる姿はどうしてこんなにも涙が出るんだろう。
涙ぐみそうになって思いつきで会話を続けた。
「レジの女の子めっちゃ可愛かったよね」
「えー」
「なんだよぉ」
「女の子に目移りされる彼氏って、」
「節操なくて悪いねぇ」
「だからって男に走っちゃ駄目だよ?」
「誰が走るか!」
オレンジペコーに舌をひりひりさせながら向かいに目を遣れば、
ケーキ、ケーキ、ケーキ、プリン、白玉(餡子なし)、
ソフトクリーム(大)、ティラミスで一山築かれていた。
「…」
「あっ目を逸らすなよぉ」
「…いい加減、甘党って認めたらどう」
「違うもん」
「違いません!!!」
「はぁい」
やっぱり私の来世は君のお母さん、かな。
輪廻転生の際にちょうどそこのポジションだけ空いているみたいに。
出逢うべくして出逢うのだろう。
「ね、幸せになろうね」
夜を切り裂く光の筋を目で追いながら指きりげんまん。
私達の生きる今現在に燦然と光の軌跡。命の約束。