肥前の詩人

午 睡
         こうず まさみ


魚市場のある海岸で
初老の夫婦が 釣りをしている
2、3本ずつ釣り糸を垂らし、
のんびり水面をながめながら

平日の午後だから
この夫婦もまた 定年退職後の
楽しみにやってきたのだろう
近くに停めてある車のナンバーは 県外である

澄み切った空では
上昇気流に乗ったとんびが
宇宙遊泳するように 舞っている
空になった木箱からは すえた魚の匂いが漂ってくる

子どもの頃
従姉妹の佳代さんに連れられ
この場所へやってきたとき
小鰯の目刺しを作る作業を手伝わされた

それ以来 目刺しをみたら思い出す
この小さな魚市場
遠く離れた場所から
なぜか 一度訪れたいと思った

目の前に横たわる 離島
青い海原を 観光船が 通り過ぎていく
ただ それだけのことだったのに
じっと 佇んでいると

過ぎ去った長い時間が 嘘のように
思えるのだった
こんど いつ 
来るだろうか 私の港へは

             HS 19・5・28


自由詩 Copyright 肥前の詩人 2007-06-19 10:53:44
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