ある雨の日より
もも うさぎ

「序」


万華鏡に
甘い想い出だけを そっと詰めて

くるくるまわして のぞきこむ

金平糖のじゃれあうような
さらさらした音がはじけて

あまりの甘さに 歯を痛めて 目を空にやれば


 
突然の雨に きらめく雨粒は

同じように さらさらと  鳴って 








「うみ」



茶器を愛でるように
ひとは壁にそっと触れて

撫でて 眺めて
ほほう とひとこと ため息をついて

これはいい境界線をお持ちですね

と、繰り返される言葉の折に

曇りの海には小雨が降って
そっとその境界線を溶かしていった


目を細めて 見やりながら

ほほう とまた ひとこと ため息をついて










「あめ」



優しい言葉を紡ぐ人に
優しいね、と言われたので
うつむいてしまった

昼間の夏空はどこかに消え去って
梅雨のような薄暗い雲が
幾重にも幾重にも 降らせている 雨の音を

さよならって
言うために生きてるんだから
言うときはどうか
慎重に
よく考えて
美しさだけで
言ったりなんかしないで

その人はそう言って



大陸の雨は
島の雨とは少し違うような気もする

大陸の風は
島の風と違って


あたしが住んでいたところは
海がとても近かったから
海から吹く空っ風で
いつも 吹き荒れて

あの日の海も
とっくに流されて


さよならを言ったことに
思ったより後から気づいたりする


幾重にも降る 雨の音を
頬杖をついて 目をつむる 午後












「かぜ」



あたしの飛ばした意識が
風に乗って行き着いたのは
太古の遺跡だった

空の隙間が
ほんの少し開いて
その意識を吸い取ってくれるのを
そこで待っているのだろう


(雨はまた上がったんだ)


この空のどこかには
必ず壁があって
その狭間を吟遊詩人が旅していて

そんなお話が大好きだったから



さわりたくて のばした手は
収拾がつかなくて 空を掴んで

もうじゅうぶんだと思う


風は
昇華するためだけに
どこまでも運んでくれるから

そのために今日は とても強く吹いて

ときを待っているのだ



人を立ち止まらせるのは
必ず 自分自身の 足で

虚空に気持ちを泳がせては

プリズムの揺れるバスの中を
ドロップのひとつでも 舐める










 
〜ある雨の日より〜


自由詩 ある雨の日より Copyright もも うさぎ 2007-06-17 23:27:32縦
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