輪廻の雨
千月 話子


  ヘンリー 私の膝の上でお眠り
  窓辺に当たる雨の音を聞きながら
  
  時々は 可愛い耳をぴくんとさせて
  解った振りをしてくれれば いい

  ひとり言を 話すから


中庭で 遊ぶ子供等の声は無く
池の波紋は 色映す魚の機嫌を損ねてしまい
小鳥の羽は 濡れてしまった


墜落する雨の縦線が 
突き出た洋館の丸い屋根を囲むように
鳥かごを作って 
私達は つがい
寝息を立てて上下する柔らかな背中に
頬ずりをしてみる


手に取る本は ハイネが良い
お前が昔 私に詠った詩を読もう
その内 背表紙を持つ手の平から
一番ほのかな桃色が浮き上がり
世界中のつがいが
私達のいる方角を見つめる
 「幸福が感染する一瞬」
ただそれだけの事で
私達の美しい 病


向こう側の窓辺で少女が笑う
両手を胸の辺りで合わせ
そして 小さく手を振る


彼女も探しに行くのだろうか
見通しの悪い雨を開いて
美しい指先を 隙に差し込んで
開いては踊るように
開いては歌うように
行ってしまうのだろうか


雨はもう雨ではなく
恋を探す少女の紡ぐ銀糸
世界中の東屋は
銀色に光る 鳥かご
雨の降る日は そっとしておいて


膝の上であくびする
ヘンリー・・・
お前もいつか柔らかい身体を輝かせ
雨夜の雫をはじきながら
私の元から行ってしまうのだろうか


代わりに 道々へ
ダイヤモンドの欠片を残しても
私はそれを 受け取らない


ヘンリー ヘンリー
あなたの可愛い子供を頂戴
そうして 雨の朝やって来る
ほの白い小さなあなたを両手で包んで
丸い西洋窓の傍に座る


「ヘンリー 私の膝の上でお眠り」


雨が2人を 垂直に囲う














自由詩 輪廻の雨 Copyright 千月 話子 2007-06-15 23:41:17縦
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