小説 『Is it no use crying over spilt milk?』(3)
宏
一段と強い風で我にかえった。見ると既にめぐちゃんは片付けを始め帰る準備をしていた。
「あ、そうだ!!今作曲にチャレンジしてるんすよ〜。」
これには少し驚いた。同じサークル活動をしていた頃何度か彼女に作曲を薦めていたが、生来根気のない性格なのか面倒くさくなって結局一曲も作ることはなかったのだ。
「これがまた難しいんすよね〜。」
白いため息を吐きながら、やけに大袈裟なしかめっ面で彼女はぼやいた。
「でももう少しなんで完成したら聞いてやってください!」
それからしばらく他愛ない話を続けた。作曲の苦労を語る彼女は本当に嬉しそうで。
彼女は僕とは違う。大好きな音楽を決して、逃げる場所になんかしないだろう。
−−−−−−
先輩はいつも優しかった。
大学時代、彼にはどれだけお世話になったことだろう。
なんでもすぐ投げ出しがちだった自分が奇跡のように毎日音楽にのめり込んでいる。
今も部屋に篭って黙々と作曲作業をしている所なのだ。両親は落ち着きのない私が家でじっとしているというだけで大騒ぎだ。(全く失礼な話である。)
まあ、実際自分が一番驚いている。先輩が楽譜すら読めない全くの素人に一生懸命教えてくれた音楽は今や、私の中で間違いなく大切なものに育っていた。
時計を見ると既に4時間が経過していた。曲作りも随分進み、明後日頃には先輩に聞かせることが出来るかもしれない。
自分の初めて作った曲。
どんな顔をして聞いてくれるのだろうか。
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