302号かんじょうせん
水町綜助

過去に
もうそこに姿のない俺と
君だなんてほんとは呼んでなかったおまえがいたとして
過去の青色はどんな色であらわすべきだろうね
それはどんな色ですっていやあいいんだろうね

俺の頭の中にはまだそのころの匂いがあるけど
たいていの人には
じっさいそんなにいいもんじゃなかったろう
だとかいわれて
でもやっぱり俺には
そのときあったあの匂いは
思い出してみるものより
いいものだったんじゃないかと思えるんだな
だってそうでもなければ
今になってまでこんなにも嗅いでいられるわけがないだろうから

青色だっていろいろあるよ
そもそも俺とおまえの目の色だってくらべればちょっとちがってたよ
俺は見てた
おまえはとび色ですこし薄くて
俺はどっちかっつうと真っ黒だった
だから違う色に見えてたかもしれないな
俺、濃い青が好きだよ
あと真夏の夕方五時くらいの金色に近いオレンジも
おまえはさみしくなるから嫌いだっていってたな
俺はあの色を見るとすごく
完璧にひらかれた気持ちになるんだ
黄金だよ
だって
気づいてないと思うけど
お前の産毛だって金色になってたんだよ
それがすきだった

302号って道路をおぼえてるか
みんなは環状線って呼んでたかな
まぁそういうの疎いだろうからわかんないか
おまえほかの町から来てたしな
あのさ
お前んちの近く走ってたあの広い通りだよ
あそこいまは変わっちゃって
防音壁が銀色で囲っちゃってるけど
おまえがいたころは何にもなくて
道の両側が開けた空だったんだ
地方都市のベッドタウンだから建物だって低いから
そこを走ってると西の空が流れていくのが見えて
それがつよい風でだんだん青と橙にぼやけて見えてくるんだ
そのころなんて今よりもぼんやりしてたから
おまえのところまで行く途中道に落ちてた鉄線にひっかかって
ジーンズも破れて足に怪我したよ
まだそこだけは白いまんまなんだ
怪我っていやだよ
跡が残る怪我と
残らない怪我の違いって何なんだろうね
だって生まれ変わるって言うだろ
何百日かすれば入れ替わって
なんで怪我の跡まで再生させるんだろうね
別に喩えてなんかねえよ
たまたまそうなっただけだ

あとおまえの事が今でもどうしようもないってわけじゃないよ
ただ俺は懐かしんでいるだけだろうし
ほんとうにそれだけでしかない
けれどおまえのことで何かを書き出すと
たしかにこうして手が止まらなくはなる
それはたしかだ
いまだって取り留めもない
伝えたかったことがまだあるとか
あたらしくおまえに教えたい俺の気持ちがあるとか
そういうんじゃないよ
ただ続いていくだけだ


さあなんか長々と書いちゃったけどここらでやめるよ
とうとつで、そしてやっぱりいつも思うけど
俺はもうこういうことをやめなくちゃいけない
何でやめなくちゃいけないかなんて理由はもちろんないけど
なんとなくそう言ってみたくなるんだ
そんだけだ
雨が上がって今日は予報を裏切って晴れだ
じゃあ


未詩・独白 302号かんじょうせん Copyright 水町綜助 2007-06-15 12:51:54
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