食欲の底
なかがわひろか

地球の軸を抜き取って
近所の人たちを串刺しにして丸焼きにした
お腹は大分空いていたので
量は大層なものだったけれど
ぺろりと食べ終えた

少し足りない気もしたので
もう一串焼こうかとも思ったが
焼くばかりではいい加減飽きていたので
次は煮るか炒めるか
はたまた味付けはどうしようかと考えているうちに
丸焼きにされなかった近所の人の通報でやって来た
警察に捕まった

まず地球の軸を奪われて
また元に戻された
軸を抜き取っていたのはほんの短い時間だったので
世の中にはそれほど影響を与えていないようだった
警察はまずそのことに安堵していた

近所の人の食べ残しを見て
どうして全部食べなかったんだと言われた
骨まで全部食べてくれれば
証拠不十分で捜査も早々に切り上げられたのに、と
今日は娘の誕生日で
せっかく早く帰ってお祝いをしようと思っていたのに、と
散々愚痴られた
僕は少し申し訳ない気分になった

食べ残した肉の残骸や骨を写真に撮ってそれらは押収されて
僕はそのまま連行された
まだお腹は空いていたけれど
さすがの僕も警察の前でまた串焼きを作るわけにはいかない
一応食べ残しを食べてもいいかと聞くと
一本の肋を渡されて
それでもしゃぶってろと言われた
何も無いよりはましだ
僕は警察署に着くまでずっとそれをしゃぶっていた

警察署に着くと
とても長い時間に渡っていろいろなことを聞かれた
どうして地球を軸を抜いたのか
警察にとって近所の人を食べたことより
そっちの方が気がかりなようだった

話が終わると
僕は牢屋に入れられて
一夜をそこで過ごした
夢の中で僕は続きの食事をしていて
とてもおいしそうに出来上がった料理を
一心不乱に食べていた

眠りから覚めると
僕は解放された
どうやら地球の軸を早々に戻したことで
僕には恩赦が出たようだ

僕はお腹が空いていたから
とてもとても空いていたから
何を食べようかと
考えている

(「食欲の底」)


自由詩 食欲の底 Copyright なかがわひろか 2007-06-15 02:25:20
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