パッセンジャーズ
Rin K




  一 「ミッシング・ピース」

手渡されたたった一枚の
欠けた切符のように
行き先でもなく
日付でもなく
空白のはずなのに
それ以上に大切なものを
どこかに忘れたまま

明日になれば二度と
みつけ出せなくなる
切り取られた欠片を探したら
電車には乗れない


  二 「ループ」

海岸線に
始まりも終わりもない
いつかあなたが教えてくれた
昼間の熱がきっと
まだ抜け切らぬこの線路も
同じなのだ、と
つぶやいてみる

駅はただそれぞれの道の
結び目でしかない
降りるも過ぎるも
そのときしだい
それでもひとは
切符を手にして

あなたは乗るべき電車を
もう二本も見送ったひと
私は乗るべき電車を
ただ待ち続けるひと

きしむ轍は
それ以上には無口で
通過する窓の明かりに
みる幻夜橙(げんやとう)


  三 「ラストステイ」

発車のベルを
小指に結びつけたら
引きずられるか
指切りするか
それとも電車に
乗るしかないから
改札に置いてきた欠片は
ありがとうだったのだということにする

ふたたびとこの駅には
降りないだろう、わたし

あれほど強く握り合った手を
黙ってほどいていくように
口をひらいたまま凍りついていた
最初で最終の電車が
静かに駅を、はなれてゆく







自由詩 パッセンジャーズ Copyright Rin K 2007-06-15 00:40:57
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