パッセンジャーズ
Rin K
一 「ミッシング・ピース」
手渡されたたった一枚の
欠けた切符のように
行き先でもなく
日付でもなく
空白のはずなのに
それ以上に大切なものを
どこかに忘れたまま
明日になれば二度と
みつけ出せなくなる
切り取られた欠片を探したら
電車には乗れない
二 「ループ」
海岸線に
始まりも終わりもない
いつかあなたが教えてくれた
昼間の熱がきっと
まだ抜け切らぬこの線路も
同じなのだ、と
つぶやいてみる
駅はただそれぞれの道の
結び目でしかない
降りるも過ぎるも
そのときしだい
それでもひとは
切符を手にして
あなたは乗るべき電車を
もう二本も見送ったひと
私は乗るべき電車を
ただ待ち続けるひと
きしむ轍は
それ以上には無口で
通過する窓の明かりに
みる幻夜橙(げんやとう)
三 「ラストステイ」
発車のベルを
小指に結びつけたら
引きずられるか
指切りするか
それとも電車に
乗るしかないから
改札に置いてきた欠片は
ありがとうだったのだということにする
ふたたびとこの駅には
降りないだろう、わたし
あれほど強く握り合った手を
黙ってほどいていくように
口をひらいたまま凍りついていた
最初で最終の電車が
静かに駅を、はなれてゆく