海、あるいは水曜日の三時間目
Utakata

柔らかな白い歯でゆっくりと噛み砕いていく

罫線付きのノートにあるのは、
二十四本の水平線で
僕たちはいつだって ノートの枠をずっとはみ出した
その先にある白い宇宙に 丸まりかけた鉛筆を使って
触れようとした ね

カミュなんて読んだこともなかったけれど
太陽のことは知っていたし
シャツからはみ出したような手足を
しょうがなくその辺に投げ出して
突き抜けるような空にふと輝く呪いにも似たそのの痕跡
瞼の裏で
赤く弾けた

太陽のことは知っていたし
僕たちがやって来たのはどんな世界なのかということも知っていた
ただそれを適切な言葉で表すことが出来なかったというだけで
適切な言葉を一つ見つけるたびに
適切な物事を一つずつ几帳面に忘れていったというだけのことだった

僕たちはアフリカのサバンナに始めて両足を着けた類人猿だったし
懐かしそうに肺呼吸をしながら海を見つめていた蜥蜴だったし、
窮屈そうに最初の身じろぎをした一つの小さな燐酸の塊だった
遠くに見えた光に引かれてやってきた隕石の一つだったし
七秒後にやっと生まれた初めの水素原子の一つだったし
それで

適切な物事を一つずつ几帳面に忘れていったというだけのことだった

二十四本の水平線は
その間を汚すにはもったいないほど真っ直ぐで
結局僕たちは傷の目立つ木製の机の上に
鉛筆で
ぐるぐると
書きなぐったりするのだ

僕はこっそりと眼を閉じて
外の空と太陽のことを考えてみる
眼に眩しい鮮やかな呪いのことと
そこから見える二十五本目の水平線のことを
そう それは

水平線からやってきて
適切な言葉も物事もすべて
ゆっくりと噛み砕いていく
柔らかな
白い歯


自由詩 海、あるいは水曜日の三時間目 Copyright Utakata 2007-06-14 22:10:21
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