小説『Is it no use crying over spilt milk?』(2)

「お、こんな時間に珍しいっすね恭平先輩!会社、とうとうクビっすか?」
ガハハと豪快に笑う彼女。考え事をしているうちにどうやらいつもの場所に着いていたようだ。
「やあ、めぐちゃん・・・。」
もう慣れたものの、このギャップにはいつも驚かされる。
彼女、めぐちゃんは黙っていればかわいらしいが喋りがオヤジ臭い。
女好きの多い我がサークルにおいて男どもに手を出されなかったのは彼女だけだろう。

周囲を見渡すと案の定聴衆はいない。
通行人は皆忙しそうに早足で通り過ぎていく。しかしそんな事は一向に気にした様子もなく彼女は日課を再開しだした。
めぐちゃんが唄うのはほとんどコピーだった。
レパートリーは割りと豊富で、今でこそ人は少ないが暖かくなれば学校帰りの学生が集まってきて賑やかなものだった。

曲目の中に2〜3曲、自分が大学時代に作った曲が混ざっている。
大したものでもないのだがやはり自ら手がけたものを聞いていると昔を思い出した。

あの頃、ただ漠然と夢を見て、ぼんやりとそれが叶うと信じていた。現実を見ようともせず、夢という言葉に逃げていたんだろう。
自分は夢を追っていたんじゃなかった、現実を見ないでいられる場所を欲していただけで・・・。

ふと、彼女を見やる、めぐちゃんはどっちなのだろう。
夢を追うものと夢に逃げ込むもの。これらは似ている様で決定的に違う。

しかし僕は知らず知らずのうちに大学生活を過ごし、今更ながらその重さを知った。

彼女はどうなのだろう。


散文(批評随筆小説等) 小説『Is it no use crying over spilt milk?』(2) Copyright  2007-06-14 17:45:33
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