余剰の海
水町綜助

―半眼 仰向けにソファからガラス棚の中へ

帆船模型の帆が擦り切れる様を想像して、視線を窓外に移せば
季節の欠片がもろもろと崩れながら天気雨に縫い付けられていくところだった
中庭の、陽の当たらない黒土の上に一粒ごと
砕かれたしゃぼんの油膜が春として死んでいく
うしろ姿ばかりきれいに見えるのは
いつも眠ってばかりいたからだろう

夏を迎えるとして
長い時間をかけてやること
生命が長い尾羽を引いて
夜の先の方に吸い込まれていくばかりの季節に
「そのながい羽を一本千切って欲しいんだけど」
と呟いたら

小さな悲鳴
暗転
そして
ぼんやりと
照明

手にした羽はやっぱり孔雀のものだった
蛇の目がいくつかにらんでは
青い水滴を滴らせて萎れていった

新鮮な羽を
何本もひろげていくほどに余剰は滲み
あふれ
ソファはすっかり浸かってしまう
いつしか室内は青く満たされて
中庭が見える窓しかもう出口はなくて
おぼれながら四角い窓を見れば
そこから見える空の色は
蝉の複眼から見る夏だろう
そんな色だろう
いくつもの
分裂した
ガラスが砕けるような
絶叫の中で
回転する
空だろう


そうしてできた余剰の海に
たぶん帆船模型が浮かんでいるから
乗り込んでみるよ

帆が擦り切れるまで走って


自由詩 余剰の海 Copyright 水町綜助 2007-06-14 17:41:12
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