サイコロを振る悪魔の掌
紫音
いま ここ いる
細部はどこまでも精緻
瞬間 空間 存在
断片は晴れ上がるほど精巧
全体
それは掴みどころなく
霞を食べているよう
仙人ではないけれど
認識が現実を規定するなら
君は囚われの僕に手を差し伸べるかい
総体
それは捉えどころなく
ジェルを混ぜているよう
エロスはないけれど
この手に触れることはできる
この足も触れることはできる
鏡像さえも曇らずに現れる
魂の形は無い
交わる飛行機雲
絡みつく蔦
電燈は不意にまばたき
たちまち世界を見失い
たちまち視界を取り戻す
置いてしまえばどうということはない言葉を
捨て置いたために気付いてしまう
何を謳うべきかわからずに
それでも綴られた言葉の中に
果たして泣き笑い
伝う詩は自生しているのか
固く信じた気持ちの先が
コーヒーの香りほどに不確かだとして
そこに電気羊の夢は生まれるのか
独り身であることも
横に寝息を感じることも
月並みの笑顔も
当たり前の涙も
湧き出る嗚咽の奥底に
コーヒーほどの香りさえ無く
キリマンジャロとブルーマウンテンの区別も付かないくせに
エクアドル・クリスティなどを買ってみる
視認が現実を映すなら
乱視の世界は現実なのか
この輪郭の全てが曖昧な世界が
この手に触れることはできる
この足も触れることはできる
鏡像さえも曇らずに現れる
それはモヤの彼方に霞んでいる
全体も総体も
数旬の前に作為されたとして
それは眼鏡越しでさえ気付きはしない
この苦味
この香り
それだけが
あやふやに世界を繋ぎとめる
精緻で精巧で輪郭の滲んだ世界を