夏
はじめ
詩作以外何もすることは無く その途中 突然夏が呼んでいるような気がして 外へ飛び出し 自転車へ飛び乗った
君が後ろに乗っているような気分で 長い長い上り坂を必死に漕いでいった
太陽はギラギラと輝いていて この数日で知らない自分に変わってしまったような気がした
頂上に着くと僕の知らない海と街がキラキラと輝いていて 突っ込んで行きたい衝動を抑えて体重を傾けて下へ降りていった
風が気持ち良かった 汗が飛んでいった 涙が思わず溢れてきた 君のことが過ぎ去る景色のように思い出されてきて 僕は涙をゴシゴシと拭いた
そのままのスピードで街を過ぎ浜辺で車輪をとられて自転車から放りだされると砂浜に吹っ飛んだ
海からは熱い波がザァーと力強く押し寄せてきて 顔を上げると引いていった
ゴムサンダルを脱いで砂浜に大の字になっていると 青く涼しそうな空が目に入って 君のことを再び思い出した 元気にしてるだろうか
起き上がって堤防によしかかっていると 漁師風のお爺さんがゴミ拾いをしていた 海は汚なかった 傍まで行ってみると温かった とても泳げるもんじゃない
真夏で海水浴場なのに人は一人もいなかった でもかき氷屋は賑わっていて 僕もなけなしの金でかき氷を買った
かき氷を食うと少し涼しくなった 再び大の字で寝ていると空の輪郭が細かく逆立っている雲が君のことをまた思い出させた 君の素敵な顔
君が街の近くにある山にいるような気がした ふと山崎まさよしの歌を思い出した
街も山も涼しくなっていって 太陽が海に沈んで蒸発させて塩を飛び散らせてしまえばいいと思った 空が暗くなり 星が太陽の代わりに瞬き始めるようになった
夜は波の音が綺麗だった 月が浮かび 人魚が飛び跳ね出てくるような雰囲気だった
星が宇宙の内臓のように無数に輝いていた こんな空があっていいのかと思うほど 図鑑でしか見たことがないような星空が眼前にあった 僕は息を飲み 近くへ寄った
自転車は泣き顔で僕を見ているように見えた 僕は街へ行くことにした
街だって あの星空に負けないくらい異常に輝いていた 繁華街は賑やかだった 僕は千と千尋の神隠しのあの街並みを思い出した 瓜二つだ
酒場に入って 不慣れなアルコールを飲んだ 君のことを思い出した 女性のバーテンダーが君に見えた?
帰り道をとぼとぼと上っていく 振り返ることはしなかった もう夏は僕のことを呼んでいない 二度とここへ来ることはないだろう 夏が君の元へ還ろうとしている
坂を上りきる頃にはまた太陽が上がって来ていた やれやれ死ぬまでそんなことを続けるつもりかい? と僕は呟いた 太陽は朝の新鮮な匂いを運んで来て 僕を穏やかにした
坂道を再び下る 僕の肩には君が手を載せている気分はもうしないんだ