あるいは骸骨の海
たね。



天盤はなだれ
黒雲はしける
なみなす水兵の錯乱
吹き揚がる蔵物と
ペットボトルの散乱

赤錆びた船の重低音
通り過ぎるたび軋む
わたしの
コールタールの夕暮れ

水際で黙る二の足
うら濁る筆で描く入江の
さびしく渡る かもめの絵画

奈落の色を咬みしめる人々
皆、哀しみを棄てて赤潮

眉間の皺が漂う波間
遮る雲は、さんざめく

微かに揺すりみつ
楽の音
それは、蒼い追憶の
あばらを浮かばせ
遠望に果てる琥珀の骨は
深い海層に湧き上がる
ため息のさざなみに
黒い雲天を打ちつけた――

雨だ

雨、
雨よ
熱き夕立のフォルテよ
この潮に張りつく怒声を洗い
血の通う青い静脈を
せぐり上げろ


*
ずぶ濡れの仔犬
死んだ魚を咥えて歩いてた

ああ、それは
まるでわたしだ

こんな海に生かされ
死んだ魚にも生かされている

黒雲の途切れ
遥か水平線の向こう
遠いブルーに尻尾を振り
喉に詰まる残骸を散らし
海に背をむけ、犬は走った―


ああ
絡み合う碧の
透きとおりの気層
そのいとおしい距離


遠景は吠えている
わたしの骨を噛みちぎる




自由詩 あるいは骸骨の海 Copyright たね。 2007-06-13 00:20:35
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