「ものとおん」#5
リーフレイン

#5 
   一対の腕

それは決まって一対の腕で、上腕の真ん中あたりから唐突に存在していた
人のものより少し大きめの掌とごつごつした指と固い筋肉を持ち、
丁度そこに人が一人いるように闇の中を動きまわる
手はいつも容赦がなかった

白い箱を開ける
優しい手ではないので、
箱はひしゃげてしまい中身がだらだらと流れおちる
手は疎ましそうにその雫を払い、箱を放り投げ
どこからか杖をとりだして、箱を打つ
箱を広げていく
四つの面しかない箱であるのに、花びらを毟っていくように 幾枚もの面が広げられ
指が食い込んで 柔らかな中身に痕をつけた
桃の実の種を探す固い中指
手は箱から生まれでたものであった

ほんの少しの媚態が蜂を引き寄せる
琥珀色の蜜がとろけて
毟られるのをふるふると震えて待つ青い草が
猛々しい欲情を隠した唇に姿を変え
耐え切れずに噛み切って流れる朱が
まろやかな象牙色の柔らかいぎりぎりを握りこむ

種を地面に
硬くこわばった手で浅く柔らかな穴を掘り
糧となるものを埋け、水を注ぎ、
容赦のない双面の種を地面に蒔く

一対の腕は上腕の真ん中あたりから存在して なめらかな白い皮膚におおわれていた
細く蒼ざめた指が小刻みに震えている
それは等しく最初の腕と同じもので 全く同じものではない


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自由詩 「ものとおん」#5 Copyright リーフレイン 2007-06-12 09:21:50
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