「ものとおん」#2−#4
リーフレイン
#2
雨の魚
雨に濡れながら歩いていると
死んだ魚の匂いが漂ってくることがある
湿った空気が ねっとりとまつわりつき
地球が水の星だったことを思い出す
そんな時、あたしの横には本当に死んだ魚が
ぎちぎちと目を光らせながら泳いでいる
少し膨らんでしまった腹を斜めにかしぎながら
ゆらゆらと ぷかぷかと
匂いは ほんの束の間で、
通り過ぎると同時にすっと掻き消えてしまった
足元に蛇の死骸を見つけた
車輪でひき潰されてしまったようで
腹の一部がへこんでいた
死骸は硬い
蛇のつややかな柔軟さはもう失われている
アリランブルーという名の紫陽花が
濃い青い色の花をつけて、雨に濡れていた
蛇を根元に埋めた
あの硬い骸が 紫陽花に抱かれて
ほどけていく
雨の中を泳ぎまわるのは
生きたままでは無理なのだろう
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#3
真夏の
真夏の墓石の
黴苔を削り取るようにしてサンドペーパーで磨く
荒っぽいたわしではいけなかった
墓石が磨耗していくのは思いのほか速いのだから
墓所にトンボが番う
しなやかにつながって飛ぶトンボは群れの中のほんの僅かだ
繁茂する雑草に
打ちひしがれる手を
持ち上げる 持ち上げる、持ち上げて
持ち上げる、ああ、君らはなんと生命に満ちていて
わたしは持ち上げた手で刈り取らなければならないのに
真夏の空に
疲れきった一杯のビールは気の抜けた苦味が生ぬるい
#4
一文字横丁
日に焼けた破れ障子
風吹いて罵詈雑言
天井の染みが怒り狂って
泣いた赤鬼 石の下
ほんとあ他人様なんてどうでもいいよ
ただ寂しいっからさあ
安っぽい心配振りまいて
安っぽさにいやけぇさして
黙って障子戸しめたんは
どんな心配でもないよりましだって
わかる前の話だったさ
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