灰色の海、透明な傘と
衿野果歩

背の高いあの人の言葉は
いつだってやさしく降り注いだ
まるで霧雨みたいに
やさしく私を包み込んでいた

けれど滲んだ愛情は 蒸発してしまったんだ
今はもうあの人の言葉は
水溜りの上に浮かんでは沈む
濁りきったその水面に
七色の光は映らない

まだ花開く前の紫陽花で
賭けをしようか
あれが青色に咲いたなら
あの人のそばまで駆けていこう
酸性の街
あの人の好きな青色なら

借りたままのビニール傘は
部屋の隅でからからに乾いた
陽の光を知らない 雨の匂いもしない

あの傘を返しに行こう
たとえそれが
本当の最後でも

透明な傘の向こう
透けて見えていたグレーの空
隣りにいてくれたあの人が
本当は困っていたことも

ちゃんと透けて見えていたの


自由詩 灰色の海、透明な傘と Copyright 衿野果歩 2007-06-11 23:20:12
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