灰色の海、透明な傘と
衿野果歩
背の高いあの人の言葉は
いつだってやさしく降り注いだ
まるで霧雨みたいに
やさしく私を包み込んでいた
けれど滲んだ愛情は 蒸発してしまったんだ
今はもうあの人の言葉は
水溜りの上に浮かんでは沈む
濁りきったその水面に
七色の光は映らない
まだ花開く前の紫陽花で
賭けをしようか
あれが青色に咲いたなら
あの人のそばまで駆けていこう
酸性の街
あの人の好きな青色なら
借りたままのビニール傘は
部屋の隅でからからに乾いた
陽の光を知らない 雨の匂いもしない
傘
あの傘を返しに行こう
たとえそれが
本当の最後でも
透明な傘の向こう
透けて見えていたグレーの空
隣りにいてくれたあの人が
本当は困っていたことも
ちゃんと透けて見えていたの