アルカディア
佐野権太
ほとんどの人は、もう
溺れているの
誰も気づいていないだけ
澄んだ指さきが
アルカディア、と答えて
空の一角をさす
新しい風景、新しい秩序
それは
見たことのない宇宙
(行けるのか
ふいに
しゃがんで
ちいさな花を摘む
手のひらに撒かれた
黄色い十字花
風
斜めにさらわれ
堕ち、堕ちて
地表近くでようやく旋回する
羽根
だいじょうぶ
約束はされているわ
いつか
遠いけれども
風のかたちに
しなやかになぎ倒される、されたい
どうどうと
内耳を震わせる水脈は
うつぶせた身の
下であったか
内であったか
睫毛の
長いまばたきに捕えられて
まゆのように、ねむい
目を醒ましたら、いない
それは
なんとなく、わかった