アルカディア
佐野権太

ほとんどの人は、もう
溺れているの
誰も気づいていないだけ

澄んだ指さきが
アルカディア、と答えて
空の一角をさす
新しい風景、新しい秩序
それは
見たことのない宇宙

(行けるのか

ふいに
しゃがんで
ちいさな花を摘む
手のひらに撒かれた
黄色い十字花


斜めにさらわれ
堕ち、堕ちて
地表近くでようやく旋回する
羽根

だいじょうぶ
約束はされているわ
いつか
遠いけれども





風のかたちに
しなやかになぎ倒される、されたい
どうどうと
内耳を震わせる水脈は
うつぶせた身の
下であったか
内であったか

睫毛まつげ
長いまばたきに捕えられて
まゆのように、ねむい
目を醒ましたら、いない
それは
なんとなく、わかった
 
 
 
 
 
 


自由詩 アルカディア Copyright 佐野権太 2007-06-11 11:02:02
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