ランジェリー・ラヴ
はじめ

 新緑の大草原で海から吹き抜けてくる風を全身に浴びて 君は古内東子の『淡い花色』を唄った 君の甘くも切ない歌い方に僕の胸は熱くなってくる 最後の「ランジェリー・ラヴ…ランジェリー・ラヴ…」というところを歌い終えると 君はにこやかな顔で僕の所へ歩いてくる 僕と君は見つめ合ってそのまま抱き合おうとする しかしその瞬間に君は消えて 他の男性と手を繋いで夕日の沈む海へ歩いて行っているのが見える 二人はそのまま海の中に沈んでいって頭が見えなくなる いつも通りの結末だ
 しかし僕が夜になって眠っているとふっ とずぶ濡れで海草が体に絡み付いた君が笑顔で立っている 片手には僕が君にプレゼントした巻き貝が握られている せっかく自分で作ったワンピースも台無しだ 君は無言で僕の体に跨り 激しく性行する 君は何度も僕の射精を導き 体内に精液を張り付かせては ヴァギナの外に流れ出させていく
 僕がふと目を覚まして起きてみるとやっぱり君は何処にも居ない 窓は開いていて南国の風が白のカーテンとワンピースを揺らす
 僕は浜辺に来てみると君はやっぱり白のハットを被って崖の上の柵によしかかって僕を待っている 僕は君の元へ行って会話のできない君と会話する
 君は終始笑顔だ そしてまたこの新緑の大草原で『淡い花色』を静かに歌う 僕はそれを聴いて性欲が高まってくる 君の歌声は鳥が羽を休めに草原に降りて聞き惚れ 風が手を緩めて心を軽くし 海が波音を立てずに静かに引いていかせる
 歌を歌い終わると僕は君をベッドに誘おうとか細い手を引く すると不思議と手が消えて時間がもの凄い早さで進んでいき 夕暮れになって また違う男性と深い海の中へと姿を消していくのだ
 夕暮れは僕を憂鬱な気分にさせた 晩春の夕暮れ時は君が死んだ時の時間にぴったり合っているからであった 君はその時間になると必ず思い出の海の中へ還っていくのだ 僕は影よりも暗く落ち込んでとぼとぼと家へと帰っていく 僕には昨日の記憶を持つことができない 心で感じることが何もできなくなって 僕は世界で一人のまま 家路に着く
 夕食も君の分まで作ってテーブルに置いておく キッチンの電気だけ付けて僕はベッドに横になる すると何故かしばらくして食卓の料理が綺麗に無くなっていることに気付く 僕はそのことも蒼い日記帳につけておく そしてキッチンの明かりを消して眠りに就く ふっ と目が覚めると君はまたずぶ濡れで全裸のまま海草や足元に苔などを付け そして片手には巻き貝を掴んで笑顔で立っている 僕は勃起をして君をベッドに寝かせ激しく内を突く 君は表情を崩し快楽の表情になり甘いあの歌声のような喘ぎ声を上げる 僕は途中であの男性の気配に気付く 途端にペニスは垂れ 窓の外の男性を見た
 僕の想いが無くなれば君達は消えてくれるんだね? と僕は心の中で尋ねた 彼は黙って頷き 君を見てゆっくりと手招きをした
 君は涙を流して僕の顔をじっと見つめながら窓のところまで行き 瞬間的に意識が途絶え再び意識が戻ると 彼と手を繋いで大草原の坂を下りていった
 朝になって目が覚めると 僕は海の一望できる崖へと向かった
 君は何処にも居なかった 僕はそよそよと吹く風に吹かれながら 君の歌を思い出し口ずさんだ 「ランジェリー・ラヴ…ランジェリー・ラヴ…」 僕は最後の部分を何度も歌いながら遙か地平線を眺めた 君は僕から消えていなくなった


自由詩 ランジェリー・ラヴ Copyright はじめ 2007-06-11 00:20:28
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