青いランドセル
たちばなまこと

裏通りに 傾いた陽が落ちてくる頃
放課後の声たちが 初夏の帯にのって
泳いでくる
バギーの乗客を覗いて
ほんのり口角を上げて
青いランドセルが追い越してゆく
まだかたそうなランドセル
さらさらのランドセル
ふでばこのえんぴつが
雨の予感を抱きながら 鳴っている


電信柱の下にかがんで
その小指みたいな花に
新しい友だちのことを 話しているのかしら


「あのね」で始まる町の物語
通学路なのにあぶない人が多いとか
だけど信号が一つしかないのがいいんだとか
車には気をつけなくちゃいけないとか
ピンポン球みたいに
ころころ ぴょんぴょん ついてくる


ぶち模様の猫が アパートの日陰で大あくび


猫といえばこういう話があるよ
ぼくが生まれる前の話でね
ママが大事に撫でていた 二匹の女の子猫の一匹がだよ
夜中にそろそろ抜け出して
路地裏でノラと恋に落ちてね
赤ちゃんをたくさん産んだんだよ
ママが大事に撫でていたのは 猫だけじゃなくてね
犬もいてね
赤ちゃんたちの面倒を 嬉しそうに見ていたよ
犬なのに猫好きなんて ちっとも普通じゃないよね
今もその犬は ぼくたちと住んでいるんだけどね


20号を渡ればさようなら
病院のパパを向かえに行く
バギーのちびちゃんには何色の
ランドセルがいいかな なんて
青い背中を夕焼けに 見送りながら


自由詩 青いランドセル Copyright たちばなまこと 2007-06-10 11:44:37
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