深海
九谷夏紀
暗い海の底で
一匹の魚が尾ひれをゆらゆらさせている
海面は荒れても
相変わらず静かな深海で
目を閉じたとき
こんなふうに浮かぶ愛は
傷ついたっていいんだけど
ただ複雑にしたくないだけで
いつか
何千年も生きる魚に育って
伝わっていると感じる
伝わっていないと考える
いつだって自分で選ぶの
いつだって自分だけで選べないの
疲れたから休むの
休んだって安まらないの
視線は他人に
足下は外へ
口先が気にするのは脳の片隅
別れ際に斜にからめた指だけがほんとうで
海の底に走る
電信ケーブルみたいなつながり
わたしからでもなく
あなたからでもなく