夕張の花嫁
池中茉莉花
みち子さん 私は忘れない
あなたの白無垢が 石炭色に染まった日を
あの日 あなたは
彼といっしょに 旭岳のてっぺんに たどりつき
おにぎりを広げたときよりも
もっと高い山の頂にいた
そう、マッカリヌプリの頂に
スキーをかついで登った山も 彼となら
何も重くはなかったのだから
たとえ 塊炭1トンかついでも
もう これからは 2人で走れるのよ
軽やかに
でも あの日 彼は帰ってこなかった
新鉱が爆弾と化したのだ
私は子どもだったけれど 覚えています
はっきりと
炎の中 炭で真っ黒の人々が
ホースのような坑道を
体を焦がして ひっくり返り
起きあがっては 両側の ゴヅゴヅの壁にぶつかって
「おっかあ」「巌〜」と叫びながら
かすかな光だけを探して さまよっていた
すでに道は燃えていた
抗夫の体も焼けていった
体中、真皮の下の組織まで
深く 深く 火が浸透し
かろうじて 息をしているだけ
それでも 生命は尽きていたのか
その問いは 炭で塗られたまま
火攻めの上に 新鉱は
水攻めを 行った
あの中に みち子さんの旦那さんが いたのですね
あなたは一人で写真屋に行った
薬指に指輪をはめて
夕張もほほえんだ
ふたりの結婚写真をうけとりに
あの日からあなたは眠っている
セロトニンを奪われて
それでも あなたはあの人とともに
生きつづけている
夕張の涙を流しながら