六月の薔薇
石瀬琳々

五月は過ぎた
麗らかで活発だった季節は
あれほど気ままだったお前も
今ではわたしの膝の上で大人しく眠る
お前のやわらかな耳たぶに降る雨に
こうして一緒に濡れそぼりながら


お前は聞いているだろうか
雨の音を それとも森陰から響く
お前が逃した鳥の声を
もう樹々が鬱蒼うっそうと生い茂って
鳥を見つける事は出来ない
だから こうしてじっとしていて
雨の音をそっと聞くのだよ
そっと雫の滴りを聞くのだよ


お前の指先に咲こうとしている
汚れの知らない薔薇の花
夏の雨に濡れて明るく輝くだろう
世界はこんなに美しいと
だから こうしてじっとしていて
こうして耳を傾けていて
やわらかな耳たぶにひそと降る雨は
お前を揺り動かしやさしく満たすだろう
やがて咲かせるいくつもの蕾のために




自由詩 六月の薔薇 Copyright 石瀬琳々 2007-06-08 14:32:59
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十二か月の詩集