おやゆび姫
紀茉莉

はは
わらうみたいになった
そのとき
しょうじょだった
わたしが
こぼれた
いつかの絵本
ちいさな
花のようなまぼろし
なんのために
おままごと
だれと、どこに、どのように



おかねをはらえばゆるされる
なんでもおかねにかえてもいい
家族になると父と妻と子になって女の子はみんな「およめさん」になるの
こどもは、なんでもいうことをきいていれば
いい、なんてうそ
いえない
どんなときもみんなといっしょだよ
すてきね
ひらひら、儚き、かざり、流れ行くはなやぎに、わずかだけ舞う
すくないものは悪
言うことさえをきいていればなんのまちがいもないはずの
あいてに、よって、ころころ
かわらない
おなじ
すがたの
イコールという、わ、で
よこにならんでむすばれる
相手のいる
場所へたどりつくまで
ながれる



彼女はなまえをもらう
とりひき、ながされることのない
そこで
しょうじょという姫かざりをなく、
す、の
いいえ
ちがう
彼女はそこではじめて になった



登場する



◆おんなの人
お金を払う
魔法使いにおやゆび姫をもらう
窓ガラスの割れたところにおやゆび姫を眠らせる
もう二度と登場しない
かりそめのおかあさん

◆魔法使いのおばあさん
要望に答える
お金をもらう
与えたものの後先まではかんがえない
商人
誕生させるおかあさん

◆ヒキガエル(父)
息子の「およめさん」をさらってくる
「きたなくてみにくい」と思っている
息子と妻がいる
さらってきたのに従うだけの
息子と妻がいる

◆ヒキガエル(男の子)
何を言われても
おなじ言葉しか言えない
そのようにしかいられない
意見と反論はこえにならない泥のなか

◆小さな魚たち
ヒキガエルからおやゆび姫を逃がす
けれど
あとは川の流れ任せ
あとの責任は持たない

◆小鳥たち

おやゆび姫を褒め称えるだけ。

◆白いチョウ

心配しても遊ぶこと以外相手に何もしてあげられない。

◆コガネムシ(男)
すきときらい
仲間のてんびんで量る
量らざるおえないほど
仲間にすべて
話さなくてはいられない場所にいる。

◆年より野ネズミ
不足している場合、与える
何も不足がない場合、ほしいものを相手に要求する
お金持ちに弱い
親切の強要を常識として
そだてるおかあさん

◆モグラ(男)
お金持ち
頭がよく
つつしみぶかい

乱暴

◆ツバメ
たすけられ
たすける
ように
等身大の相手を知っている
そこがあたたかい国
そして、このお話をつたえたおじさんに、うたった話者



ものがたりがおわる
そこからがせいかつ
おやゆび姫だった
日々が
かたち作った
すがたとことばをもって
どんなひとたちがまわりにいて
なにをのぞみ
その、なにをかなえてあげられて
どんなことに反発し
どんなふうにこなして
過ごして
きた
いろんなひとたちが
いろんな場所で
納得のうえか妥協のすえか在るように在って
かつては、居られることだけしか許されていなかった
けれど
ほんとうは、どんなふうに居たかった
だから
だれのためにどんなふうに生きて行きたい
そのために、なにをできるようになりたい
なにをかなえようとしているの
これから



あらゆるものを知っているから
選ぶことができる
何も知らないまま同じ場所に居続けることもできる
おやゆび姫ははじめからおやゆび姫で
うつろいゆくことを止めるなんて
できなかった
流れいくこと
選べなかった
でも
彼女は
最後に
答えた
「モグラといるのは嫌、ツバメと行く」



だれが、どんなことを思っている
そのために
(なにをもって)
(なにを変えて)
だれと、どこで、どのように暮らす
だれに、なんと、答えなければならない



選べない「生まれ」の臍の緒とのタイジ



はは
どんなわらいのよこで
わたしというおんなのひとになるの
ふふ
と、ないたりしても
すべてわたしをゆるす
こと葉の終着



わたしがわたしをうむ
はじまりとおわりまでのおはなし




自由詩 おやゆび姫 Copyright 紀茉莉 2007-06-08 13:25:18
notebook Home