TREE CLIMBER
はじめ
世界中を見渡せるような高い木がある
生き物達はそれを世界樹と呼ぶ
世界樹の周りには世界樹を神として信仰する生き物達が集まって放射状に大都市が造られており 一大国家が築かれている
空には飛空船が溢れ 地上は自動車と蒸気機関車が忙しなく働いていて 世界樹に近づいていくほど立派な建物が聳えている
世界樹教のメッカであるこの大都市は連日巡業者や観光者で賑わっている この国家の人口の何倍もの生き物達が世界樹をじかに一目見 そして撫でようと世界中から集まってくる
空から降ってくる世界樹の葉は万病に効くとされ お参りに来た生き物達は必ず買っていくという代物だ 飛空船が開発された今も 世界樹の頂上まで辿り着いた者は誰もいない 頂上は雲を越えて宇宙まで届いている 今まで名ろうてのツリークライマー達が世界樹へ登って頂上を確かめようとしたが 皆途中で挫折して空から落ちてきた 挫折した者達は皆 雷雲に雷で打たれた とか 幻影を見た とか 巨大な雪玉が転がってきた だとか 物凄い吹雪が吹いてきたなどと言った 頂上に着くのは不可能とされ もし頂上に到達して印を立て帰還できた者は 永遠の名誉と金銀財宝を手にすることができると国家を担う王様は言った 印を確認することは現代の技術でできた
僕は元々は登山家であったがこの王様のおふれを聞いてツリークライマーとして世界樹制覇に挑戦することにした
世界中の冒険家や登山家達が世界樹登りの大会に参加し白い鳩が突き抜けるような青空へ羽ばたいてスタートが切られると 参加者達は挙って世界樹へ登り始めた その数は計り知れなかった
この大会は全世界が注目していた 巨大な世界樹は ほぼ直角に角度がある為 相当な体力と忍耐が必要だった 多くの者達は最初の難関の雷雲に打たれて脱落していった 僕はなんとか雷雲を避けて上へ上へと登っていった
雲の中を進んでいる時に 突然妖艶な美女が現れて 生き物達それぞれの姿で誘惑した
他の者達は思わず手を離して幸せな表情を浮かべながら落ちていった 僕は惑わされずに目を瞑って登っていった
雪雲の中に入って巨大な雪玉が上から幹を伝って転がってくるのを必死に避け物凄い吹雪に耐えながら何日も何日も幹にテントを打ち込んで眠っていた 本当は神聖なる世界樹に傷をつけてはいけないのだが今大会のみ許されるそうであるらしかった
雲を抜けるとギラギラとした太陽が僕達の体力を遠慮無く奪っていった 空はどんどん青くなっていくばかりだった そしてどんどん黒に近づいていった 満天の星が綺麗だった 宇宙に出たのだ
気が付くと挑戦者は僕一人だけになっていた 宇宙服を身に付け 果てしない世界樹を登っていった 無重力だったので楽と言えば楽だった 幾日も過ぎ 巨大な枝に手をかけた時 太陽や月までも隠してしまう世界樹の頂上に辿り着いたのだ
そこは天井が緑で覆われていて真っ暗な不思議な空間だった 地上とは別世界のドーム型の森のようだった 僕は中心まで歩いていき 印の旗を刺した
地上に帰ると世界中の生き物達は僕を歓迎してくれて 世界樹を制覇したという永遠の名誉を授けられ 莫大な金銀財宝を手に入れた 取材が世界樹の葉の色が変わり落ちるまで続いた 僕はこの世界樹と共に人生を歩んでいこうと決めた