「悲しい夢を見たあとに」 (青年詩片)
ベンジャミン



悲しい夢を見たあとに
声を上げて泣いてしまったのは
その夢が悲しかったからではなく
その夢が現実にほど近い
記憶だったからかもしれません

昔のことですから
もう数えきれないくらい繰り返して
記憶もすり減っているはずでしょうに
やたらと鮮明に見えてしまうのは
もしかしたら
悲しむために泣いているからかもしれない
なんて思えてしまいます

まるで
悲しい夢がいつの間にか
悲しむ夢に変わってしまったかのように

けれど
飛び起きた後に一瞬周りを見わたして
自分が何処にいるのかわからなかったり
とっさに押さえた胸の鼓動がもう
手のひらを突き破りそうなくらいでしたから
それはやっぱり
悲しい夢なのでした

夢ですから
刃物のように鋭くとも
この身を本当に切り裂けるはずもなく
通り過ぎればそれはまさしく夢
のような出来事なのですが
それを物語るような涙が
もっともらしく悲しいように流れるので
それはもう
止まるまで待つしかありません

悲しい夢は
いったいどこからやってきて
いったいどこへ消えてゆくのかと
乱れた髪をなだめるように頭を抱えながら
目を閉じればそこにも
もう一人の自分がいるものですから
それはもう嘘だと思いたくなりました

悲しい夢を見たあとに
そんな自分を
悲しく思ってしまうことは止められなくて
こぼれた涙に悲しみがとけているのなら
泣くほどに心が軽くなるはずだと
枕に顔をうずめれば
それをきれいに写し取ったかたちまで
まるで自分の分身のように思えてしまったから

それは仕方なく
優しく抱きしめてあげました

悲しい夢を見たあとに
悲しむための涙を流しても
それを知っているのは自分だけですから

明日からは
できるだけ笑顔でいたいと思いました



      
  


自由詩 「悲しい夢を見たあとに」 (青年詩片) Copyright ベンジャミン 2007-06-07 01:25:44
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