ラストシーン
小川 葉

バケツは横たわって喉を渇かしている
思いっきり蹴られて宙を二、三回転しても
着地のやり方はまちがってしまう
あれほど着地を練習したのに
いざ蹴られてみたら本番に弱いので
側面にへこみばかりが増えてゆく
何度かに一度の確率でバケツは
隣のバケツのほうへ口を開けて転がる
その確率もあやしいもので
一生に一度あるかどうか保証はないが
チャンスにさえ巡り会えれば隣のバケツと
苦しさと希望について語り合え
気持ちさえ通じ合えれば
ふたつのバケツには水がなみなみとそそがれ
廊下に立たされる悪童の両手にぶらさがることができる
悪童は廊下でさらなる悪事を画策するものの
計画は見事に教師にばれてしまい
そのすきにふたつのバケツは長距離バスに乗り込んで
新たな苦しさと希望に満ちた世界へと旅立ってゆく
バスの中ふたつのバケツは互いの水を飲み合う
そこで幕は降りる


自由詩 ラストシーン Copyright 小川 葉 2007-06-07 00:50:22
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