誕生
おるふぇ

「僕は生まれた」
その一行で終わった詩があった
誰もその意味を理解できず
無視した
読み流した
そして、
その他大勢の詩の一群として
呑み込まれ
忘却の海に沈んだ

「僕は生まれた」
そう、
「僕は死んだ」んだ
じゃない
「僕は生まれた」んだ

子宮
おお、子宮
大いなる宇宙
神秘と母性の海
総ての始まりを司る
愛情と、孤独の源泉

僕の脳の中に
ミジンコが泳ぐ
狂ったんじゃない
正気なんだ
それは精子と名付けられた
希望が内包された細胞
おお、子宮
泳げるだろうか
死なず潰されず
僕は生まれるだろうか

人生なんて一行の詩に集約される
「僕は生まれた」
この香気にぐらつく意識
壮大なる微視の世界

おめでとう、
少なからず誰かが
祝ってくれるだろう
ようこそ、いらっしゃい
その時の歓迎の輪は
その一行の行間に
まだ残っているだろう
何も遺せるものはなく
塵と消えても

子宮、
あなたにまた還りたい
それだけの祈りを
泳ぎ疲れて息絶えた
大量の精子に捧ごうか

「僕は生まれた」
空も、海も、風も、花もある
君がいる世界に
来れたんだね

夢の果て
緑鮮やかに包み込む
柔らかな光に溶ける涙
繰り返されることさえ
もう忘れてしまいたいような
喜びが身体を活かす
「おいで」って
君の声がして
夢の果て、
また誘われるように
ふらつきながら立ち上がる
泡と弾ける刹那の愛に
くるりと絡まりながら
笑っていたい

「僕は生まれた」
ここには総てが、ある
君との約束が
今、果たされる

ありがとう


自由詩 誕生 Copyright おるふぇ 2007-06-05 17:37:12
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