木陰たちの夕宴
相馬四弦
夕暮れを待たずに
森から逃げ出した木陰たちは
灼けた道路を飛び跳ねながら渡る
防波堤をみんなですべり降りて
はじめて歩く砂浜に騒ぎながら
穏やかに寄せる波に驚いたり
不思議な巻貝を拾い集めたりした
そろそろ辺りが朱に染まり始めた頃
いつの間にか輪の中に紛れ込んでいた人陰が
遠くにかすむ沖を指差し
むこうへ行ってみようよ
木陰たちは人陰に導かれて踊る
夕凪の輝きを浴びながら浅瀬を行進していく
やがて海はすこし不安で
やさしく冷たく しずかになる
自由詩
木陰たちの夕宴
Copyright
相馬四弦
2007-06-05 17:12:53