不思議な交際 
服部 剛

風船の顔をした 
君の彼氏が 
口先ばかりの愛を囁くので 
「 死にたくなった 」と 
君は深夜のメールをぼくに送る 

驚いて、瞳もぱっちり覚めたので 
深夜の散歩で月を仰いで 
川のほとりでたたずんだ後 
精一杯の声援を 
封筒に入れ 
独りの夜に震える君がいる 
パソコン画面の向こうへ 
投函した 

翌日の夕暮れ 
仕事を早く切り上げて 
電話ボックスに入り 
君の携帯番号を押す 

緑の受話器越しに 
ふにゃりとした君の声が 
唇を開いたので 
くだらぬジョークを連発すると 
昨日の深夜が嘘みたいに 
笑い声が受話器からこぼれた 

君には彼氏がいるというのに 
「 あなたの声を思い出してた 」 
猫なで声でぼくに言う 

その夜ぼくらは夢を見た 
誰もいないましろい世界で 
向き合う君が 
かくん と膝を落として 
ぼくの足元でおいおい泣いた 

翌日の正午 
ぼくらは改札で待ち合わせ 
寺の竹薮にある茶屋で 
腰を下ろして肩を並べた 

一輪の花が描かれた茶碗を手に
戸惑いを秘めた君の横顔 
彼の顔が浮かぶ風船の糸を 
片手の指でつまんで持っていた 

隣のぼくはハサミを出して 
ゆれてる糸を、ぷつりと切った。 








自由詩 不思議な交際  Copyright 服部 剛 2007-06-04 20:03:47
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