不思議な交際
服部 剛
風船の顔をした
君の彼氏が
口先ばかりの愛を囁くので
「 死にたくなった 」と
君は深夜のメールをぼくに送る
驚いて、瞳もぱっちり覚めたので
深夜の散歩で月を仰いで
川のほとりでたたずんだ後
精一杯の声援を
封筒に入れ
独りの夜に震える君がいる
パソコン画面の向こうへ
投函した
翌日の夕暮れ
仕事を早く切り上げて
電話ボックスに入り
君の携帯番号を押す
緑の受話器越しに
ふにゃりとした君の声が
唇を開いたので
くだらぬジョークを連発すると
昨日の深夜が嘘みたいに
笑い声が受話器からこぼれた
君には彼氏がいるというのに
「 あなたの声を思い出してた 」
猫なで声でぼくに言う
その夜ぼくらは夢を見た
誰もいないましろい世界で
向き合う君が
かくん と膝を落として
ぼくの足元でおいおい泣いた
翌日の正午
ぼくらは改札で待ち合わせ
寺の竹薮にある茶屋で
腰を下ろして肩を並べた
一輪の花が描かれた茶碗を手に
戸惑いを秘めた君の横顔
彼の顔が浮かぶ風船の糸を
片手の指でつまんで持っていた
隣のぼくはハサミを出して
ゆれてる糸を、ぷつりと切った。