しおりの わけ
たりぽん(大理 奔)

シャープペンが紙を滑る音で
断ち切られる記憶が鼓動になる
遠い日、焦がれた痛みを愛しく思い

  あなたの体は柔らかいという方法
  私の融点を
  花の名前を当てるように
  ほほえみながら探り当てては
  水が凍る寸前の粘度でしたたるから
  背筋を伸ばして
  凍えるようにふるえてしまう

日記には置いただろうか
じっと動かさない万年筆からあふれた
蝶のような蛾のような、あの染みを

  「 ただ
    あなたの
    ちいさな夢で
    いたかった

    寝息のそばで
    静かにコトリと刻む
    小さな時計で
    いたかった     」
   
そんなふうに書こうとはしなかった
そうでしょう、けっしてそんなふうには

色鉛筆はどの色も
面影にやさしさの輪郭をなぞり
ため息に似た独り言は秘めたまま
山の斜面を雲の陰影が流れていくのを
そっと栞にかえて挟み込む

そしていつかその場面を開き
栞の理由を思い出せたなら
それが私のいちばん深いところに置いた
消えない染み

蝶のような
蛾のような




自由詩 しおりの わけ Copyright たりぽん(大理 奔) 2007-06-04 00:37:00
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