二〇〇三年一二月十五日③
板谷みきょう

時に
彼の発想は、奇抜過ぎてうとましがられていた。
社会に牙を剥くことと
人には優しくあることを
大切な信条にしている節もあったけれども

彼の語る話には、真実を見抜きたいという
憧れが常に合ったように思う

四十三歳で食道癌で他界したこと

早いか遅いかの違いこそあれ

確かに彼は“死”を見据えて生きていたのだ


自転車でマクドナルドヘ買い物に行った話

自転車に乗ったまま
マクドナルド注文したことある?
できるかできないかの話じゃないんだけどさ…

その日は
無性にハンバーガーが食べたくなって
近所の「マック」まで
歩いて行くには遠い距離だし
ドライブスルーは無いし
車は持ってなかったし
仕方なく
自転車で行くことにしたって訳

自転車に乗って走っていたら
気持ち良くてね
あの風を切る気持って
子供の頃にしか味わえないの

自動車に乗っちゃうと忘れてしまう感覚
絶対の自由なんだよねぇ 
あの感覚って・・・

自転車には、その絶対的な自由があるわけよ
そんなことを、考えながら走ってたら
自転車から降りる行為そのものが
とてもじゃないけど
してはいけない不浄の行為に思えてきてさ
だから そのまま店に入って
カウンターに注文しに行ったのね

店員が驚いたのなんの あれは、尋常じゃなかったよ

自転車に乗ったまんま店に入って注文して来た客が
開店以来、今まで居なかったらしいのよ
まるで
異常者扱いされちゃってさぁ

もう 大変な事件みたいなのさ

だけどもね

落ち着いて考えて欲しいんだけどもさ

外を歩いてきた靴と
外を走ってた自転車のタイヤの違いって
ドコにあると思う?


外に居たことで泥やら土やら埃やらが付いてる状態に
違いは無いと思わない?
そりゃあ、自転車は、場所をとっちゃうけれどもね
そのくらいだよ。

運動靴とか
革靴とか
スニーカーとか
下駄とか
雪駄とか
長靴とか
草履?
ワラジ?
それで入っても問題無いのに
自転車のタイヤで入ると大問題になっちゃう。

可笑しいでしょっ。
笑っちゃうよ。

「固定観念」の何物でもないんだもん。

本当に

・・・

四年前に他界した彼のサイトが
未だに残されている。

彼の姿はかつての其れとは別人のようで
ホームページのトップを飾る彼は
「亀仙人」みたいだ

そして
私に残した三つのエピソードで
彼は私に何を託そうとしたのかは
想像するしかないのだけれども
このエピソードも抱えながら私は
これからの
残された人生を歩むことだろう

彼の名前は「野本和浩」という。


参照:http://www.h5.dion.ne.jp/~catn/index.html


自由詩 二〇〇三年一二月十五日③ Copyright 板谷みきょう 2007-06-03 02:12:32
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