入水のち
夕凪ここあ
一夜目に
魚は水底で静かに息を潜めてる
女は甘い溜息を波紋の隙に流してる
二夜目に
月の裏側から覗く女の憂い顔
空虚に穴の開いた瞳と痩せ細った指先と嘆きと嗚咽
とうに音をなくしてきたから 入水支度
とうに渇いて仕方のないから 入水支度
裸足の爪先に鱗が生まれて 入水支度
躊躇いの夜
薄衣に手をかけて指先の三日月で引っ掻く
鮮やかな色合いと密やかな匂い
切り裂いた細い息と泡のように繊細な三夜目の晩
三日三晩のち新月
蝶の羽化を合図に
静かに入水
足元の鱗が
泡立つ
波立つ
水面
すっと
満水の
女の
横顔
水
音
一夜目に
女は波紋に甘い夢を見た
魚は水底で静かに息を引き取った
水面に凛と張る夜のなき声