それでも風は
草野大悟

かろやかに
自転車を漕いでいた風は
あの日、突然
吹くことを断ち切られ
いまは
病院のベッドで
蛹となって
眠っている


息することさえできなくて
ときおり
顔を歪め、真っ赤にして
それでも
あのころのように
吹こうとする
懸命に
吹こうとする


風よ
あのころ
たおやかに
海を渡った
風よ

おおきく見開かれた眸に映る
過去と未来と今を
抱きしめながら
ゆっくりと
ゆっくりと
羽化しておいで


そして
もう一度
あのころのように
思う存分
大空を駆けるがいい


自由詩 それでも風は Copyright 草野大悟 2007-06-02 14:18:20
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