えらばれた人への哀歌
美砂

だれよりも
上手にできることは
よいことですか
きらびやかで烈しい舞
なめらかに、ひとつのまちがいもなく
うたうように、ひたすらのぼりつめてゆく
けして息ぬきなんて
できない

みんながあなただけを追いかけている
あなたにはいつも光が真上からあたっていて
そこではほほえみ以外のものをみせてはならない
もし、一歩でもライトからはみだしたなら
あなたはあなたではなくなる
もうだれもあなたには
目もくれなくなり
あなたはそれが死よりももっと
こわいのだろう

あなたをみていると
美しすぎて哀しくなる
完全すぎて息がつまりそうになる
それ以上はないから
それ以下では許されないから

控え室でただひとり
派手な化粧を落とした
あなたの姿は老婆そのものにみえる
もう何十年も生きた人みたいに
疲れ切って 体中悪いところだらけで
だがその瞳だけは
今生まれたばかりの赤ん坊よりもさらに
ほとんど赤裸々なほどに
輝いている 


自由詩 えらばれた人への哀歌 Copyright 美砂 2007-06-01 22:27:38
notebook Home 戻る