抹茶佳人
佐野権太
耳から
抹茶がこぼれてしまうという
朝になるとシーツは
たっぷり緑を含んでいて
洗うたびに
深みを増していくのだという
(この時期だけなんですの
と
さして困ったふうでもなく
さらさら湯をそそぐ
指さき
たわいのない軽口に
(ほんとうにそうね
と
くすくす揺れるうちにも
こぼれる
座卓の照り返す鈍い光に
はじける
その
鮮やかな粉末に
みとれていると
拗ねたように
つ、と
掬いとってしまう
*
開け放たれた窓にふくらむ
風をみつめている
その、後れ毛に
なめらかに撹拌された
初夏がそよぐから
私の頭の
斜めうしろは
まろやかに泡だって
(また、いらしてね
なんて
淡すぎるささやきを
つい
聞き逃してしまう