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水町綜助
+四杯目から+
店の一番奥に大きな真っ黒なドアがあって
それはちょっとやそっとでは動かせそうにもないタンスで蓋をされてる
さらにはドナセラなんたらとかいう幸せの木の鉢植えでカムフラージュだ
育ちすぎてる
酒も回った胡乱な目つきでそれを見つめていると
相席しているさんぴんがカウンターをとんとん叩いた
*なに
+あれなんだろうね
*なにが?
+ドア
*しらないだからみてた
+ずっとあのままだよ
*ああ
+このみせもう奥行き無いよね
*ああ
+厨房あっちだし
*物置かなんかだろ
+あんなでかい扉で?
*しらねえ
+たんすで蓋して?
*わかんね
+きになるよ
*きいてみれば
+それつまんねえよ
*二階じゃない?
+階段?
*うん
+このビル外に階段あるよ
*ああ
+飾りとか
*んなわけないだろビル古いしいびつだからかたち 増築でもしたんだろ2F
+だとしてどうなってんだろうね?2F
+ちょっときて
*あん?
店の外は五月末にしては冷え込んでいた
ビルの裏に回りこむ
+位置的にはあの辺かな?
*そう、だね
+あの窓ってどうだろう
表へ走って行くそいつ
犬みたいに
見上げると
窓はかすかに光っているようにみえる
街灯のせいかもしれなかった
外観上増築された不自然さは見当たらなかった
すっと目を逸らすと犬が戻ってきた
+やっぱりあの窓のある部屋は外の階段からは行けそうにないよ
*ふうん
+きになるな
*ああ
+聞いてみるしかないよな
*そうだな
からりとドアを開けた店内はオレンジ色に暖かい
$どこいってたの?
*ああ、それなんだけどさ
+ひとつききたいことがあるんだ
自分たちのカウンターにもどり
スツールに座ろうと僕たちはカウンターに手をついた
空腹に四杯だ
きっと酔っ払ってもいたろう
体重をかけた僕の手は
グラスから沁みだして溜まっていたちいさな水たまりの上に置かれて
そして滑った
僕はずるりと傾いた ゆっくり ゆっくりと
置きっぱなしのギネスのグラスに手が当たって
グラスはほそい脚で三回ほどくるくる円を描いて踊ると
そのまま優美に飛び降り自殺した
ゆっくりおちて
ゆっくりおちて
そして光みたいな音を立てて粉々に割れて
金色の液体をあたりに飛び散らせた
床にぶちまけられたビールの匂いが立ち込めて
その黄金の中で
僕たちは黙り込んでしまった