sauce
水町綜助
バルサミコソースが複雑に酸っぱくて
関係ないのにあの汗の味に似ていたからって
ああもうぜんぶだめなんだとフォークを置いた
まったく大げさな話だ
こうやって一日中町をふらついたあと
溶けた飴で出来たバーの中
きいきい鳴く一席に浅く坐って
焦げ付いたポスターが風にたわむ音を聞きながら
町の上に昇り続けている太陽に店ごと透過されつづけている
黄金いろだ
夜の間中
置かれた銀色のフォークがゆれてる
その光だけがぶれて
+四杯目から+
夜に思うこと
暗闇のこと
手探りであること
背中の不可視性
鏡への懐疑
肉眼のこの二つの瞳のよわよわしさ
その濁り方
隻眼将軍のこと
つるぎのこと
切先の描くほそい線のこと
盲目のこと
光のこと
金色の光
あたらくしあ
この店の中
すかすのは
光ではなく
床にぶちまけられたビールの匂いだ